ピロートークにならない

「たとえば、だ。俺と、お前の勇者サマが崖から落ちそうになっていたとして、どちらかしか助けられないとしたら、どうする」
 最近気づいたのだが、情事後の気だるさに身を委ねている時に限って、ユシュカは面倒なことを聞いてくる。
「ファラザードの魔王ともあろうものが崖から落ちたくらいで死ぬんですか?」
 俯せて腕を枕にしたまま視線をそちらにやると、ユシュカは苦笑した。
「わかった、例えが悪かった。二人が死に至る病を患っているとして、薬が一人分しかないとしたら?」
「……一人に薬を飲ませて、もう一人が寂しくないように後を追います。あなたは、どちらがいいですか」
「そういうどっちでもいいという態度が一番両者を傷付けること、知っておいた方がいいぞ」
「知ってます」
 人の睡眠を邪魔しようとする輩にはそれくらい言ってやってもいいと思っている。
「ともあれ、俺は生きることにしよう。盟友と勇者のいないアストルティアを手に入れることほど容易いこともなかろう」
「それはちょっと気分悪いですね」
「だろう?」
「魔王様はアストルティアを舐めてかかって痛い目見るといいと思いますよ。神も勇者も盟友もいなくとも、人は強い」
「さあ、それはどうだろうな」
 傍若無人な手のひらが、羽織っただけの上衣の裾から忍び込んできて眉を顰める。お互いのお国自慢の様相を呈してきた夜は長くなりそうだった。

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