主人公は普通の人、ユシュカは魔族だから、その寿命差でユシュカが後に残されるの確定かと思ってたら、世界を救う過程のゴタゴタで主人公の寿命がほぼ永遠になってて、寿命が先に来たのはユシュカの方だった。気の遠くなるような時間が過ぎたあと、ユシュカの魂を持って生まれた一人の人間の前に、以前と全く変わらない姿の主人公が現れて⋯みたいな妄想でギャン泣きしてるよ。
「ずっと探していました」
穏やかに、まるで旧知のように話しかけてくる。見覚えのない顔だ。だが、初めて会った気がしない。全くの他人に対する当たり前の警戒心も湧いてこない。見た目も声も、記憶のどこにもないはずのそいつから、いつの間にか目が離せなくなっている。覚えていないのは、俺の方なのか。
「どこかで、会ったか?」
こちらからの問いには、ただ柔らかな微笑だけが返った。視線に捕われる。ふと、そいつが辿ってきた長い長い旅の軌跡が、探し続けた何かの影が脳裏に断片的なイメージとして過ぎった。知らない記憶。
「ああ、すみません。⋯⋯まさかまだ契約が有効だったなんて」
打って変わって慌てたような相手の声で、脳内のビジョンはことごとく掻き消された。台詞の後半は独り言のように小声だったが、聞き取れないほどではない。疑問が積み重なっていく不快さがつのる。
怪訝さを隠さない俺に、奴は手を伸ばしてきた。
「今生でのあなたの幸せを、祈っています」
指先が頬に触れようとした瞬間、一陣のつむじ風が巻き起こり、砂塵に目を閉じる。
次に目を開けたとき、もうそこには誰もいなかった。