2022/4/24のまとめ。
①その後甘っちょろい理想論である協調を成しえなかったアストルティアと魔界の全面戦争が始まるにあたって「あなたは(お前は)どっちにつくの(んだ)?」って左右から勇者魔王に挟まれて、やっぱり全部滅ぼそうかな、などと思う力を持ちすぎた者。
ナドラガンドが好き。
ナドラガンドが好き。
②最終的にアストルティアと魔界の新たな脅威として、世界を滅ぼす邪神となる元大魔王様。自分が倒された後のことはもういいや。俺が時間稼いでいる間にユシュカ考えておいて。
③邪神を倒して今度こそこのままじゃいけないと全面戦争は回避、何とか世界が共存の道を歩み出す中、実は勇者も魔王もトドメを刺せなかった邪神が、魔王の隠れ家に飼われている妄想。命以外の大体全てを失ったそれに、愛していると話しかけてやると、すきだよと無邪気に笑い返してくる。
④秘密裏に世界の技術の粋を結集させて何とかすがたかたちだけは取り戻したものの、それのこころと世界に仇なした罪はどうにもならず飼い殺しにするしかなく、だがある日見張りの者が少し目を離した隙に姿を消してそれきりになった。あいつはずっと俺たちに対して壊れたふりをして隙を窺っていたのか。
の続き。
目撃情報は十日も待たず上がってきた。大魔王が直近の世界の脅威であったあの邪神とイコールであるという事実が、魔界でもまたあちら側でも事情を知る限られた者以外には伏せられていたことは、この場合幸いであった。そうでなければかの邪神再来に、再び世界を巻き込んだ大騒動となったことだろう。大魔王として盟友として十分に顔は知られていたから、その足取りを掴むのも時間の問題かと思われたが、曰く声をかけたが無視された、目が合った途端逃げるようにその場を立ち去ったなどという話ばかり続出し、各所から集まった数の割に中身のない目撃談からあいつの行き先はとうとう割り出せなかった。情報が回っているかどうかは知らずとも、邪神の自覚があれば身は隠して当然か。その割に目撃談が多すぎるのがやや引っかかるが。
一旦魔界の地図を片付け、情報の多いあちら側の地図を広げた。ふと、その地図に記された小さなバツ印に目が吸い寄せられる。
──たまに、どの町に行っても顔見知りばかりなのが息苦しくて、一人が恋しくなるんです。
そういうときの避難先がこの辺、俺の秘密基地、と何故か少し誇らしげにアストルティアの地図を指差した、あれはいつのことだったろうか。何気ない雑談のさなかだったので、そこに印を付けながらも「現地を知らんからピンと来ないな」と流してしまったのが悔やまれた。
おぼろげな記憶の奥底から浮かび上がった可能性は、魔界とアストルティアを繋ぐあちらで言うところの「盾島」からは目と鼻の先だった。ランドンという山脈は標高の高さから年間を通じて深い雪に覆われているらしい。橋上の宿の話し好きな主人はこちらの軽装をしきりに心配し、頼んでもいないのに分厚い毛皮の外套を押し付けてきた。魔族だから気候の厳しさには耐性があるという言い分は最後まで聞き入れられずじまいだった。帰りがけに返してくれたらいいと言われたが、そんな人の善意頼りの約束を本気で信じているのだろうか。アストルティアの商人は善人が多くて調子が狂う。
山頂近くの目的地へは予想より時間がかかった。寒さの方は耐えられないほどではないが、吹雪で視界が悪く足場も悪い。おまけに雪に適応した魔物共がちょうど油断した頃合いを狙って襲ってくるので一時も気を抜けなかった。確かに食べる物に事欠く環境ではあるが俺なぞ食っても美味くないぞとは思う。一歩ごとに足が沈み込む雪を踏み、魔物を退けているうちに逆に暑くなってきてやはり外套は断ればよかったと思い始めた矢先、目的の洞穴が見えてきた。
秘密基地と言っていた割に、思いの外存在感のある立派な横穴だ。手をかけてしげしげと観察した入口は、自然の侵食と言うより人工的に切り出されたような直角に近い角度で内部に入り込んでいる。
まさか、掘ったんじゃないだろうな。あいつならやりかねんが。
万にひとつの可能性だった。それでも目的があることで胸の焦燥を忘れられるのならば、動かないという選択肢はなかった。果たして、洞穴に足を踏み入れ二、三歩も歩かないうちに、煙のにおいが漂ってきた時には飛び上がりそうになった。逸る心を抑え、それでも奥を目指す歩みは早まる一方で。意外に深さのある空間の最奥で、そいつは焚き火の更に向こうに蹲り、こちらを睨みつけていた。
恨んで当然だろう。こいつに人としての形すら保てないほどの危害を加え、その上長期に渡り監禁し続けたのは俺なのだから。
「……探した」
つまらない言い訳を続けるつもりだった唇から二の句は出なかった。火の爆ぜる音に、沈黙が落ちる。返答を待つ、永遠にも似た時間を越えて、大魔王は警戒を隠さずに口を開いた。
「……あなたは、俺を知っているんですか?」
久しぶりに聞いたこいつの意思が入った声に気を取られ、束の間内容が頭に入ってこなかった。
「──は?」
山頂近くの目的地へは予想より時間がかかった。寒さの方は耐えられないほどではないが、吹雪で視界が悪く足場も悪い。おまけに雪に適応した魔物共がちょうど油断した頃合いを狙って襲ってくるので一時も気を抜けなかった。確かに食べる物に事欠く環境ではあるが俺なぞ食っても美味くないぞとは思う。一歩ごとに足が沈み込む雪を踏み、魔物を退けているうちに逆に暑くなってきてやはり外套は断ればよかったと思い始めた矢先、目的の洞穴が見えてきた。
秘密基地と言っていた割に、思いの外存在感のある立派な横穴だ。手をかけてしげしげと観察した入口は、自然の侵食と言うより人工的に切り出されたような直角に近い角度で内部に入り込んでいる。
まさか、掘ったんじゃないだろうな。あいつならやりかねんが。
万にひとつの可能性だった。それでも目的があることで胸の焦燥を忘れられるのならば、動かないという選択肢はなかった。果たして、洞穴に足を踏み入れ二、三歩も歩かないうちに、煙のにおいが漂ってきた時には飛び上がりそうになった。逸る心を抑え、それでも奥を目指す歩みは早まる一方で。意外に深さのある空間の最奥で、そいつは焚き火の更に向こうに蹲り、こちらを睨みつけていた。
恨んで当然だろう。こいつに人としての形すら保てないほどの危害を加え、その上長期に渡り監禁し続けたのは俺なのだから。
「……探した」
つまらない言い訳を続けるつもりだった唇から二の句は出なかった。火の爆ぜる音に、沈黙が落ちる。返答を待つ、永遠にも似た時間を越えて、大魔王は警戒を隠さずに口を開いた。
「……あなたは、俺を知っているんですか?」
久しぶりに聞いたこいつの意思が入った声に気を取られ、束の間内容が頭に入ってこなかった。
「──は?」
つまり、何かの拍子にこころが戻ったが、記憶の方は壊れたままだった、とそういう事情だったらしい。で、ほぼ本能のままに逃げ出しこの場所に流れ着いたと。
「じゃあお前はどうやってここに」
「荷物に入ってた手帳に、地図が挟んであって。でも何も見つからなかったので夜を明かしたら立とうと思ってました」
「そこに俺が来たわけか」
正に奇跡の邂逅と言えたが、運命の相手は険しい表情を崩さぬままだ。
「ああ、悪かった。自分の名は覚えているか?」
唐突な問いに虚を突かれたか、大魔王は、多分、と前置きした後自信なさげに名乗った。
ほっと息を吐く。雪と魔物に囲まれた山を危なげなくこの洞穴まで辿り着いている時点でひょっとしたらと思ったが、おそらく記憶の内いくらかはこいつの中に眠っている。いつか目覚める日もあるかもしれない。
さて、どこから話したものか。目標はこいつをファラザードに連れ帰ることだが、出会った当初のように硬質な態度からはこの先は難航しそうな気配しかない。
「俺の名はユシュカ。魔界の一国ファラザードの」
そこまで一息に話してから、不意に胸が詰まった。
「ファラザードの王、……そしてお前の伴侶でもある」
二度とは見られぬ聞けぬものと思っていた強い視線が、記憶の奥にだけ残る声が、今突然濁流のように押し寄せて自分を保っていられなくなる。
笑え。お前はゼロから国を築いた王だろう。
「……あの、大丈夫ですか……?」
全く変わらないお人好しが立ち上がり近付いてくる。
身体の具合はもういいのか、どこも痛いところはないか。それから今の俺に迂闊に近寄ってくれるな、手が届こうものなら二度と離してやれなくなる。
忠告はどれひとつとして声にはならない。
「じゃあお前はどうやってここに」
「荷物に入ってた手帳に、地図が挟んであって。でも何も見つからなかったので夜を明かしたら立とうと思ってました」
「そこに俺が来たわけか」
正に奇跡の邂逅と言えたが、運命の相手は険しい表情を崩さぬままだ。
「ああ、悪かった。自分の名は覚えているか?」
唐突な問いに虚を突かれたか、大魔王は、多分、と前置きした後自信なさげに名乗った。
ほっと息を吐く。雪と魔物に囲まれた山を危なげなくこの洞穴まで辿り着いている時点でひょっとしたらと思ったが、おそらく記憶の内いくらかはこいつの中に眠っている。いつか目覚める日もあるかもしれない。
さて、どこから話したものか。目標はこいつをファラザードに連れ帰ることだが、出会った当初のように硬質な態度からはこの先は難航しそうな気配しかない。
「俺の名はユシュカ。魔界の一国ファラザードの」
そこまで一息に話してから、不意に胸が詰まった。
「ファラザードの王、……そしてお前の伴侶でもある」
二度とは見られぬ聞けぬものと思っていた強い視線が、記憶の奥にだけ残る声が、今突然濁流のように押し寄せて自分を保っていられなくなる。
笑え。お前はゼロから国を築いた王だろう。
「……あの、大丈夫ですか……?」
全く変わらないお人好しが立ち上がり近付いてくる。
身体の具合はもういいのか、どこも痛いところはないか。それから今の俺に迂闊に近寄ってくれるな、手が届こうものなら二度と離してやれなくなる。
忠告はどれひとつとして声にはならない。
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