ポッキーの日

「で、二人で両端から囓っていってたくさん食べた方の勝ちだ」
「でも、顔がぶつかってしまうのではないかしら」
「それが面白いんじゃないか」
 細長いチョコレート菓子を手に何やら真剣に話を聞いているのは魔瘴の巫女、生真面目な生徒に気を良くして得意げに講釈を垂れているのはファラザードの魔王だった。
「どうだイルーシャ、一勝負──」
 バンッと巫女の部屋の扉が派手な音を立てて開け放たれた。いいところで邪魔の入ったユシュカは露骨に渋い顔になり、だが扉の向こうに立つ人物を認めるなり先程より更に悪い笑みを浮かべた。
「大魔王サマいいところへ。もちろん混じるだろう?」
「城の風紀を乱さないでいただけますか」
「固いこと言うなよな」
 足早に室内に踏み入りイルーシャを庇うように傍へと佇んで大魔王はユシュカを睨み付ける。射抜くような視線に少しも怯むことなく、そのおとがいに指をかけユシュカは笑みを深めた。
「俺はお前が相手でも構わないが?」
「お断りします」
 不穏な空気を隠さず睨み合う二人に全く頓着せずイルーシャは首を傾げた。
「私はやってみたいけど……」
「……イルーシャちょっとあっちで話をしようか」
 急に情けない顔になった大魔王は巫女を連れ部屋を出ようとする。そこに顔を出したのがアスバルとヴァレリアだった。
「みんなここにいたのか」
「大魔王に魔王に魔瘴の巫女が雁首揃えて暇そうなことだ」
 氷の魔女は自分の投げたブーメランにおそらく気付いていない。
「アスバルー、ポッキーゲームしようぜー。師匠直伝のアストルティア遊戯だぞ」
「何だって?! 詳しく教えてくれないか」
 投げやりなユシュカの誘いにアストルティアフリークのアスバルがまんまと食いついた。イルーシャにした説明をもう一度繰り返すと、目を輝かせたアスバルがヴァレリアに向き直る。
「やはりアストルティアは素晴らしいよ。ねえヴァレリア、一度手合わせ願えないかな」
「貴様死にたいようだな」
 もはや事態の収拾を諦めて立ち尽くす大魔王の隣でスケッチブックに熱心に書き物をしていたイルーシャが「できた」と嬉しそうに声を上げた。
「どうしたイルーシャ」
「ねえユシュカ、総当たり戦とトーナメントどちらがいいかしら」
 地獄の閻魔帳よろしく名前の並んだスケッチ用紙を目にした大魔王は本気で頭を抱えた。
 結局巫女の無邪気なお願いに弱い大魔王やヴァレリアといった面々も巻き込んで総当たり戦となったポッキーゲームはイルーシャのワンサイドゲームに終わり、優勝賞品としてユシュカから大量のポッキーを進呈された彼女が城内にそれを配って回った結果、大魔王城に一大ポッキーゲームブームを巻き起こったと言う。

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